
空が太陽の存在を忘れてしまったような日だって|留学中の日記
イギリスのダラム大学に留学していたとき、わたしはときどき日記を書いていました。手書きで。
わたしは手書きが好きです。大事な人には手書きのお手紙を送りたいし、日記は手書きじゃないと日記じゃない気がします。
だから、留学中の日記は手書きでした。
7月19日
ちゃんと天気予報を見てから出かけたのに、
Tescoに着く頃には雨がぽつぽつ降り
始めて、買い物を終える頃にはここではあまり見ない
レベルの土砂降りになってた。待ってても
しょうがないので、雨のなか家に帰った。
Tescoで買った大きなひまわりをかざった。
気分が沈むことも多いけど少しでも気分を
明るくするために。きれいなものを身の回りに
おいておきたい。
今ちょうど陽がさして、ひまわりを見て、
わーきれい!って声が出た。えがおに
なれた。うれしい。
7月20日
さっきふと、いつかお母さんが言ってたことを
思い出した。あと20年くらいでこの世と
おさらばか、さみしいなって。死ぬことを
さみしいって思ったことがなかったから
よく覚えている。長年生きてると、それだけ
出会った人の数も多くて、あちこちに
いろんな思い出ができるから きっとさみしい
気持ちになるんだろうな。もう二度と会わない
人ってどれくらいいるんだろう。考えると
やっぱりさみしい。この留学でいろんな人に
出会ったけど、いったいどれだけの人に
また会えるんだろう?
今訳している文章で気に入ってるものがある。
…even on those days when the sky
seems to forget the sun ever existed
at all. 空が太陽の存在を忘れてしまった
ような日だって。
そんな日、イギリスではたくさんあるなあ。
そんな日のためにひまわりを昨日買ったん
だった。今日は晴れたり、くもったり、雨が
たくさん降ったり。音楽室に行ったから
外には出たけど、ほとんど部屋に
いた。明日は晴れてほしい。ここに来てから
毎日そう願ってる。
今訳してる文章、というのは、All the Good Thingsというイギリスの小説からの引用です。
この文章を読むと泣きたくなっちゃうのは、それは小説のある流れのなかで出てくる文章だから、というのもありますが、シンプルではっとする言葉だから、なんでしょうか。
留学していたダラム大学はイングランド北東部にあったので、それはそれはもう、暗くて寒かったです。
でも、晴れた日は信じられないくらい美しかったのも事実です。
日本では考えられないくらい、天気が1日のうちで目まぐるしく変わるから、晴れたと思って外に出たら雨になったり、雲がものすごい勢いで太陽を隠してしまったり。
だから、日記にもあるとおり、わたしは文字どおり毎日、明日は晴れてほしいって思っていました。
冒頭の写真は、スーパーで買ったひまわり。わたしが暮らしていた寮の部屋です。
イギリスでは、どのスーパーでも色とりどりのお花が売っています。しかも、両手いっぱいで4ポンドくらい。高いスーパーでも、8ポンドくらいでお花を買えました。
だからわたしはよく、スーパーできれいなお花を買っていました。窓からのぞく、どんよりとした空にひきずられないようにするために。




日本に帰国したら、晴れていたけど、青の色が薄い気がしました。
イギリスの空はもっと、濃くてはっきりとしていたような気がします。だから、道端に咲くお花や赤れんがの家々、舗装されていない小道の土が、あざやかに映ったのかな。
よく晴れた夏の日に、またイギリスの景色を見たいです。

